死亡事故における損害賠償請求の増額事例

交通事故の死亡事故においては、逸失利益及び死亡慰謝料について、様々な判断が裁判所からなされています。

 

1 逸失利益とは

死亡事故の場合、被害者の方は、命を奪われますので、交通事故に遭わなければ得られたはずの収入を失うことになります。

この得られたはずの収入など、交通事故によって失われた利益は逸失利益と呼ばれ、損賠賠償請求で請求できる損害のひとつとされています。

逸失利益は、1年あたりの基礎収入に、死亡しなければ稼働できたはずの期間(就労可能期間)を乗じて算定することになります。

ただし、死亡事故の場合は、収入を失うことになりますが、被害者の方が亡くなっているので、その後の生活費の支出もなくなるという点を考慮して、逸失利益の算定に当たっては、損益相殺として生活費を控除するという特殊性があります。

さらに、損害賠償金の支払いは、示談交渉の結果にしろ、裁判の結果にしろ、実際の支払いは一時金賠償として一括払いされるのが原則ですから、就労可能期間によって算定され年払いとして支払われるはずの金額を一時金として再度評価し直すことが必要となります。

その具体的な方法として中間利息を控除する方法が行われています。中間利息の控除は、就労可能期間に応じた一定の係数を乗ずるという方法で控除することになります(裁判や実務では「ライプニッツ式」という方式が採用されています)

以上から死亡事故におけます逸失利益計算は、以下の計算式で計算されています。

死亡逸失利益の計算

1年あたりの基礎収入額 ×(1-生活費控除率)× 就労可能年数に対応するライプニッツ係数

になります。

基礎収入の金額をどのように主張するか、生活費の控除率をどう考える か、就労可能期間をどのように算定するかも、個別具体的な事情を考慮して算定されます。

 

1 基礎収入について

1 有職者

  1. 給与所得者
    ア 22歳の会社員につき、明確な昇給規定が整備されていなくても、昇給が相当な確かさをもって推定できる場合はその範囲で考慮することができるとしたうえで、勤務先の同僚の現実の昇給率を用いて基礎収入を算定した(最高裁判所 昭和43年8月27日)

    イ 17歳の男性アルバイトにつき、ホームセンターとコンビニエンスストアでアルバイトをしており、就労意欲があることが認められ、その就労意の向上も十分に見込まれる年齢であったとして、賃金センサスの男性学歴全年齢平均の5,427,000円を基礎収入の金額として算定した(仙台地方裁判所 平成20年2月27日)

    ウ 日本料理の調理師として働いていた32歳の会社員につき、職種が技術の習得を要するものであることから、事故前収入は480万円余であるが、賃金センサス男性全労働者の30歳から34歳の平均5,089,100円と差異がなく、生涯を通じて全年齢平均程度の収入を得られる蓋然性が認められるとして、賃金センサス男性学 歴計全年齢平均5,606,000円を基礎とした(大阪地方裁判所 平成15年7月30日)。

    エ 37歳の高卒の会社員につき、年1回の昇給が予定され基本給のうち年齢給は毎年昇給し職能給、技能手当及び生産手当も等級が上昇するに従って昇給する賃金体系となっていたことから将来昇給した蓋然性が認められるとして、事故前年収入408万円余ではなく、賃金センサス男性高卒全年齢平均の4,619,000円を基礎とした(東京地方裁判所平成24年11月30日)。

  2. 事業所得者
    ア 専門学校を中退した27歳の内装工のかたにつき、申告所得額は3,460,000円余であるが、内装業代金振込額が年間700万円以上あったことから平均賃金を得る蓋然性が高いとして、賃金センサス男性学歴全年齢平均5,478,100円を基礎とした(大阪地方裁判所平成18年6月16日)

    イ 46歳の男性のパブスナック経営者につき、事故前の申告所得に妻の専従者給与を加算した額を基礎とした(東京地方裁判所 平成 7年6月20日)

    ウ 事故まで半年ほど理容業を休業していた75歳男性について、特定の顧客に理容サービスを再開し、事故直前の年賀状では理容店の名前で利用の注文を受ける旨顧客に挨拶するなどしており就労の蓋然性が認められるとし、現実収入に青色申告控除、専従給与の90%、車原価償却費、医療法人からの給与を加算した休業前3年間の平均17万円余を基礎とした(名古屋地方裁判所 平成24年9月14日)。

  3. 会社役員
    ア 企業主の死亡逸失利益は、企業収益中に占める企業主の労務その他企業に対する個人的寄与に基づく収益部分の割合によって算 定すべきであるとした(最高裁判所昭和43年8月2日)。

    イ 61歳の男性の会社代表者につき、2社の取締役報酬の実収入9,600,000円を、稼働状況、年収、会社の業績等から全額労務対価とすることを認めた(札幌地方裁判所 平成9年1月10日)

    ウ 45歳の男性の同族会社の代表取締役につき、事故の当期及び前期とも損失が生じているにもかかわらず、年間1000万円を超える役員報酬が計上されていたことなどから、役員報酬の全額が労働の対価であるとは認められないが、会社の規模、経営状態、役員報酬額、賃金センサス男性高卒45歳から49歳平均579万円余等に鑑み、事故の当期の役員報酬の80%に相当する6,720,000円を基礎とした(大阪地方裁判所 平成24年9月27日)。

 

2 家事従事者

  1. 賃金センサス第1巻第1表の産業計、企業規模計、学歴計、女性労働者の全年齢平均の賃金額を基礎とする(最高裁判所昭和49年7月19日)
  2. 82歳の男性につき、料理と洗濯の他、パーキンソン病に罹っている妻の介護、世話を行っており、同年齢の家事従事者より家事の量が多いとして、賃金センサス女性学歴計全年齢平均である3,434,400円を基礎とした(横浜地方裁判所 平成21年7月2日)

 

3 無職者

  1. 学生・生徒・幼児等
    高校2年生につき、高校1年時の成績は優れていなかったが、勉学に対する意欲があり大学へ進学するのを当然とする家庭環境にあったこと、そして両親と本人も進学を希望していたことから、大学に進学した蓋然性が高いとして、賃金センサス男性大卒全年齢平均を基礎とした(東京高等裁判所 平成15年2月13日)
  2. 高齢者・年金受給者等
    国民年金(老齢年金)ついては、最高裁判所平成5年9月21日に、老齢厚生年金については、東京地方裁判所平成13年12月20日に逸失利益性が認められています。

 

4 失業者

53歳の男性無職者につき、過去に有職で妻帯していたこともあり、将来にわたって同じ状態が継続するものとは予測し難く、むしろ何らかの収入の途を得る蓋然性を否定できないとして、賃金センサス男性学歴計平均5,360,200円を基礎に、生活費控除率を60%で認めた(福岡地方裁判所飯塚支部 昭和63年8月30日)

 

2 生活費控除率

1 一家の支柱

  1. 被扶養者1人の場合・・・40%が原則
    (ア) 妻と二人暮らしだが別居中の高齢の養母がおり相応の扶養の要があった57歳の男性会社印につき、35%を認定(金沢地方裁判所 平成22年8月31日)

    (イ)23歳のアルバイトをされていた男性につき、一家の支柱と認定した上、交際していた女性が出産した子との間で認知審判により親子関係が認められて子に対する扶養義務が確定しており、事故で死亡しなければ養育費等の取り決めがなされ、その履行がなされていったであろうことが窺われるとし、生活費控除率を40%とした(東京地方裁判所 平成20年12月24日)

  2. 被扶養者2人の場合・・・30%が原則
    (ア) 39歳の男性会社員について、離婚して2人の子供と別居し、看護養育を元妻に委ねていたが、週1、2回は面会交流し、マンションの住宅ローンや管理費を負担して子供に住居を提供し、遊興費を負担するなど経済的負担をしていたことから、親権者として扶養義務を負っていたばかりでなく、実際にも相応の経済的負担をして、生計上は同一世帯を形成し、主として世帯の生計を維持していたとして、生活費控除率を30%とした(名古屋地方裁判所 平成26年12月19日)
  3. 女性(主婦、独身、幼児等を含む)
    ア 50歳の女性で事故前年の年収751万余の小学校教員につき、小学校教員である夫、農業に従事している両親、大学性及びの息子の6人で生活し、主婦として家庭生活を支えていたことかた、生活費控除率を30%とした(東京地方裁判所 平成26年11月26日)

    イ   夫を扶養する兼業主婦(59歳)につき、賃金センサス女性学歴計全年齢平均を基礎に、事故後夫が死亡したが、その死亡は事故と相当因果関係がなく、損益相殺の法理又はその類推適用により控除すべき損失と利得との関係があるとは言えないとして考慮せず、生活費が、控除率を30%とした(大阪地方裁判所平成17年4月1日)

  4. 男性(独身、幼児を含む)・・・50%が原則
    ア 25歳の男性につき、女性と交際していたが、子をもうけるかは不確定だが、遅くとも30歳までには婚姻をするとして、生活費控除率を30歳まで50%、それ以降を40%とした(;広島地方裁判所 平成10年1月23日)

    イ 23歳の男性大学生につき、事故の2年前に父親が死亡し、卒業後は母親を扶養し一家の支柱とあんることが予定されていたとして、賃金センサス男性大学全年齢平均を基礎に、生活費控除率40%とした(大阪地方裁判所 平成14年10月30日)

    ウ 35歳の男性独身給与所得者につき、小学校5年生になる子がいる女性と1週間後に結婚式を挙げる予定であったことから、生活費控除率を30%とした(大阪地方裁判所 平成17年3月11日)

  5. 年金部分について
    ア 老齢厚生年金、老齢国民年金及び遺族厚生年金(年額合計約241万円)を受給していた75才女性の無職者について、生活費は逸失利益性を有しない遺族厚生年金(年額約200万円)のみで賄うことが可能であったとして、逸失利益性を有する老齢厚生年金及び老齢国民年金の受給合計額額(年額約41万円)に対しては生活費控除を行わないとした(大阪地方裁判所平成14年4月11日)

    イ 63才の女性主婦について、夫が経営している会社3社で稼働しており、就労可能な67歳までは会社給与所得が得られたであろうとして年金に関する生活控除率を30%とし、68歳以降は会社での収入は得られなくなり、主婦業のみとなること、他方、死亡時には収入のある夫や付す子2名と同居していたことなどから生活費控除率を50%とした(横浜地方裁判所平成23年7月14日)

 

3 就労可能年数・・・原則として67歳までとする。

67歳を超える者については、簡易生命表の平均余命の2分の1とする。67歳までの年数が平均余命の2分の1より短くなる者については、平均余命の2分の1とする。

未就労数の就労の始期については、原則として18歳とするが、大学卒業を前提とする場合は大学卒業予定時とする。

但し、職種、地位、健康状態、能力等により上記原則と異なった判断がなされる場合がある。

年金の逸失利益を計算する場合は平均余命とする。

  1. 54歳女性の琴曲次第につき、就労可能年数を70歳までとした(京都地方裁判所昭和62年5月6日)
  2. 56歳の男性開業医につき、70歳まで就労可能であるとした(京都地方裁判所平成7年12月21日)
  3. 60歳の男性税理士につき、税理士の業務は、事務員による作業の割合も大きく、通常の職種よりも長期にわたり稼働し得るとして、就労可能年数を75歳までとした(大阪地方裁判所 平成22年3月11日)

 

4 死亡慰謝料

1 一家の支柱・・・2800万円を基準とするが一応の目安

  1. 46歳の男性会社員につき、本人分2800万円、妻250万円、子2人分各100万円、合計3250万円を認めた(千葉地方裁判所松戸支部)
  2. 1つの事故で生後11か月の長男とともに死亡した21歳の男性につき、本人分2800万円、妻400万円、両親に各100万円の合計3400万円を認めた秋田地方裁判所 平成22年7月16日)
  3. 娘が9歳のときに離婚し、以降17歳になるまで扶養してきた49歳の兼業主婦につき、本人分2600万円、娘400万円、合計3000万円を認めた(東京地方裁判所 平成17年7月12日)

 

2 母親、配偶者

  1. 53歳の女性有職主婦につき、運転者及び会社のほか、運転者が極度の疲労状態にあることを認識しながら乗車を止めさせるなどしなかった会社の運行管理者及びその代務者、過酷な労働条件におかれていることを認識しながら適切な是正措置を行わなかった労務管理者にも不法行為責任を認め、死に至る態様が極めて凄惨で残酷であること、居眠運転で追突したことなどから本人分2700万円、子2人各200万円、母100万円、合計3200万円を認めた(名古屋地方裁判所 平成19年7月31日)
  2. 31歳の女性保育士につき、本人分2500万円、夫200万円、子200万円、父母各100万円、合計3100万円を認めた(千葉地方裁判所平成26年9月25日)

 

3 その他

  1. 独身者
    ア 事故により植物状態(1級3号)となった後死亡した事故時18歳亡くなられた時24歳であった男性単身者につき、本人分2800万円、母200万円合計3000万円をみとめた(東京地方裁判所平成13年1月27日)

    イ 18歳の男性高専生について、母親は、夫と離婚した後、被害者およびその妹の親権者として同人らを養育してきたこと等から、本人分2200万円、母600万円、合計2800万円を認めた(大阪地方裁判所平成21年7月31日)

    ウ 15歳の女性中学生について、本人分2200万円、父母各250万円、祖父母・姉妹3名各120万円、合計3300万円を認めた(宇都宮地方裁判所 平成23年3月30日)

  2. 子供、幼児等
    ア 8歳男性の小学生につき、加害者が時速40キロで走行したこと(指定最高速度20㎞)等を考慮し、本人分2300万円、父母各200万円、事故直後に受傷した被害者を目の当たりにしたこと等を斟酌し兄(11歳)100万円、合計2800万円を認めた(東京地方裁判所八王子支部平成19年9月19日)

    イ 5歳女性につき、本人分2400万円、父母各300万円、弟100万円、合計3100万円とした(京都地方裁判所平成24年10月24日)

  3. 高齢者等
    ア 75歳の主婦をしていた女性につき、本人分2500万円、病気による介護を必要とする夫100万円、子2人孫1人各50万円、被害者が介護していた知的障害を持つ孫については、祖母である被害者の死亡により介護施設への入所を余儀なくされたこなどから300万円、合計3050万円とした(大阪地方裁判所 平成22年2月9日)

    イ 75歳の主婦をしていた女性似つき、加害者は前方注視義務及び信号遵守義務という自転車を運転する際の基本的な注意義務を怠っており、対面する歩行者用信号機の青色灯火に従った被害者には何等落ち度がないことかなどから、本人分2300万円、夫200万円、子100万円の合計2600万円を認めた(東京地方裁判所平成26年1月28日)

  4. 内縁関係にあった者等
    ア 78歳の女性で料理店女将につき、本人分1000万円のほか、およそ29年間同居し同料理店を経営していた69歳の妻のいる内縁の配偶者に、営業損害は認めなかったが、被害者が給与を受けずに尽力していたことなどの事情は慰謝料において評価するのが相当であるとし、妻との婚姻が明らかに破綻してことなども考慮して1300万円を認めた(大阪地方裁判所 平成21年12月11日)
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